第10回:ブラック・ショールズによるオプション価格決定
今回は金融業界の人なら誰もが一度耳にしたことのあるブラックショールズのオプション価格について。
端的にいうと、コールとプットをブラックさんとショールズさんが定式化したということ。どのように定式化したかというと、こんな感じ
って感じ
この時、
,
どうやってこの式を導いたかって?
こんな感じ。
ひたすら微積とときたま熱伝導方程式とフーリエ展開をすればなんとかなるはず。(てかなんとかなった)
もちろん、その場で導けって言われたら少なくとも常人には無理ゲーな気もする。数学科や物理科ならわんちゃんあるけど、それでもきついはず笑
ってことで式の導き方よりも式の意味についてしっかり考える方が大事ということでそっちに重点を。
まず初めにこのブラックショールズ偏微分方程式によって導かれたオプション価格式についてだが、大きな前提が3つある。
1つ目はオプションの対象とする株に配当がないこと
2つ目はオプション取引期間中の分散が一定であること
3つ目はリスクフリーレートがオプション取引期間中に一定であることである
現実としてはリスクフリーレートや分散が一定あることがほとんどないため多少ずれる(配当についても同様)。
とりわけ分散についてはオプション価格からブラックショールズ式に当てはめて示唆される分散を計算(implied volitility)してそこからオプション価格が適正かどうか逆算する手法もある。
次に式そのものの意味についてだが、これはわりとそのまま
C = N(d1)*S - X*e^-rt *N(d2) から始めると、
当然株価と比例してコールオプションは高くなる。どれくらいの割合で高くなるかっていうとN(d1)。これはまさしくコールオプションが途中で行使される確率を示している。
またX*e^-rtはオプションを行使することによって株を買える値段の現在価値を示している。
極端の例としてコールオプションが行使されないケース、つまりN(d1)=0ならばコールの価値は0となる。逆に途中で行使される場合、コールの価値は株価Sが行使価格Xを上回った分の価値となる。
プットの場合、均衡式を用いることでコールと逆の結果が得られる。
第九回:ブラックスワン(下巻)とまとめ
プラトン性のせいで私たち人間は物事を簡略化して自分たちが分かっている以上にわかってると思い込むんだなぁ。そんな統計学はダメなんか?
こんな考えをもやもや持ちながら下巻へ
ブラックスワンの下巻についてだが、引き続き予測の難しさについて。下巻を読んでて思ったのはこの予測の難しさ、それに伴う筆者がプラトン性と呼ぶ人間の性質の産物として誕生したモデルの批判の前提にはの月並みの世界と果ての世界という区分が重要であることがいまさらながらわかった。
月並みの世界とはいわゆるベルカーブなどが適用できる拡張不能の世界を指し、弱いランダム性に左右される。ゆえにひとつひとつの出来事の影響も限定的である。
一方で果ての世界とは拡張可能の世界を指し、いくらでも物事の上限、下限を拡張することができ、ゆえにひとつひとつの出来事(いわゆる黒い白鳥)が世界全体に絶大な影響を与えうることがある。これは強いランダム性のもとで左右される世界であり、不確実性やリスクがモデルなどによって容易に測れない世界を示している。
上巻・下巻をまとめるとこのブラックスワンは自分的には以下のようにまとめられる。
1.“黒い白鳥”というのは異常な出来事、その出来事が多大なる影響を与える、その出来事が起きたのちにあたかもそれが事前に予測できたかのようにみなされるものを指す。
2.人間には物事をパターン化して複雑な事象を捨象しようとする“プラトン性”という性質を持ち合わせるがゆえに認識的な観点から物事を正確に捉えることに限界がある。
私たちの判断や物の見方が過去に捉われてしまう経験主義論に基づく追認の誤りや人間のプラトン性から物事の因果律を求め、それが過去・現在・未来の出来事に対して普遍的に適用できると考えると仮定をおいて、必要以上の説明をしてしまう講釈の誤りがこれらの代表例である
3.上記の人間の性質のゆえに、多くの“黒い白鳥”を見逃しがち、あるいは軽視する傾向がある
4.私たちが生きる世界はいくらでも拡張可能な“果ての世界”であり、 “モデル”といったものでリスクや不確実性を測れるほど容易な世界を生きていない。
リスクや不確実性というものの捉え方をもう一度考え直さなければならない。要するに現代において“当たり前”だとされる様々な認識手法や仮定に対して懐疑主義的な目線をもち、自らの不確実性やリスク管理を過信してはならない。そんな単純な世界を今の私たちは生きていない
しかし、この“まとめ”というのも筆者的には言わせてもらえば人間のプラトン性を如実に表した格好の例であり、これでわかった気になるのは大きな間違えである。
第八回:ブラックスワン(上巻)
ファイナンスの勉強してたら通りかかってベストセラーらしいからとりあえず手にとって読んでみた(だいぶ時間かかったけど笑)
ブラックスワン 不確実性とリスクの本質
題名通り、次の3つの性質を持ち合わせる現象を中心に不確実性とリスクについてエッセー方式でズラズラ書いている。
そもそもここでいうブラックスワン(黒い白鳥)とは、
1.異常なこと(めったに起こりえないこと)
2.非常に大きな影響を与えるもの
3.のちにその現象に対してそれらしい説明が付与される現象のこと
上巻を読んでる印象は
人間は世の中で起きていること、これから起こりうることについて分かったつもりでいたりするが、実は何もわかっていない。というより予測することなんてできない。
この主張を主に内部的な要因と外部的な要因の大きく2つのアプローチを通じてサポートしていく。
まず内部的な要因としては主に認識的な限界、そして人間本来の習性から難しいと述べる。
まず人間は何事も複雑な事象を簡略してモデルなどのパターンによって捉えようとしている。これを筆者は人間のもつプラトン性と読んでいる。物事を因果関係で説明しようとする習性もこのプラトン性の一種がある。しかし、因果関係というものは決して普遍的なものではない。過去の事象を因果で説明したところでそれが現在の事象を説明するという根拠にはならない。時としてはその因果関係の説明力を過信して誤った事象の説明に割り当ててしまう。
外部的な要因としては事象の偶然性。セレンディピティって言葉じゃないけど、予期せぬ目的から発見が生まれることだってある。
ここでこれを読んでるときの僕の脳内を垣間見るとこんな感じ
予測が難しいのはよくわかった。人間が自分を過信するのもパターン化によって大きく見落とす、それゆえ黒い白鳥の格好の的になるのもよくわかった。自分の定式化、物事の情報、ありとあらゆるものを疑う懐疑主義的なアプローチをとれといいたいのか?そういうわけではなさそう。少なくともそうなっているってことを認識して常に黒い白鳥の存在を頭にいれといてほしい。
こんな感じで下巻に突入していった。。。
メモ2:懐疑主義論にまつわる話
いまブラックスワンを読んでて、その過程でいくつか調べ物したから忘れないうちにメモ
この本の一つの中心的な概念の一つとなる懐疑主義論と因果関係の解釈について。哲学の潮流の中でこれらについて議論した重要な人物としてヒュームがいる。
ヒュームは人間本性論において人がどのように世界を認識しているかという認証論からはじめる。
その中で心に表れるモノ全てをさす知覚を印象と観念に2分し、すべての観念が印象から生まれるとした。そしてこれらの観念が結合することによって知識が生まれるとした。
この結合には自然的関係のものと哲学的関係のものの2種類があるとした。前者はsimilarity, contiguity, causalityの3つ、後者は質/量・類似/反対および同一性/因果に分けた。
ヒュームはこの因果関係について一つ重大な見解を述べている。
ヒュームによると因果関係とはあくまでも人間が勝手に経験に基づいて習慣的に築き上げたものであり、決して過去・現在・未来を必然的に説明しうるものではないと述べている。それまで無条件に信頼されていた因果律には心理的な習慣という基盤が存在することは認められていたが、それが必ずしも正しいものであると論証できないとしたのはヒューム固有の考えであり、後に懐疑主義として評価されるようになった
第七回:先物とオプション取引
金融が現在のように複雑化したのはこれらがあるからといっても過言ではない。正直全部書いてたら盛りだくさん過ぎなんでそれぞれ概略だけざっと。
はじめに先物取引についてふれていく。
先物取引とはある商品を未来のある時点に決められた価格で売買する取引をさす。
コモディティなど価格の変動が激しいものに対して一定の価格で購入できるという点でヘッジなどに使えるという特性がある(主要業務ではなくそこで損益を考えたくなければ)。もちろん価格の変動方向などがわかっていればそれ自身を収益源とするのも可能である。
次にオプションなどについてだが、これも他の金融商品によって価格が決定される派出商品である。
オプションには大きくcall とputという2つの形態がある。
callはあるオプションの行使期日まである株式を一定の価格で購入できる権利をさす。
また、pullはある株式を一定の価格で売却できる権利をさす。
当然株式が購入価格(strike price)より上がれば、callオプションを駆使して一定の価格で購入した後に市場価格で売却して利益をあげることができるし、putの場合はその反対で市場の価格で株式を購入してオプション契約のstrike priceで売却して収益をあげることができる
またオプションにはオプション行使期日までオプションを行使できないヨーロピアンオプションと購入日と行使期日の期間内であればいつでも権利を行使できるアメリカンオプションが存在するが、現在はたいていのオプション取引はアメリカンオプションである。
オプションには大きく2つの特性がある。
1.少ないお金でも大きな取引ができるというレバレッジ特性
2.一定のプレミアムを支払うことによってリスクを殺せるヘッジ特性
これらの特性をふまえた上でいくつものオプションを組み合わせた無数の戦略が存在する。詳細についてはまた別に取り上げる。
最後にオプション価格の均衡式について、結論からいうと
P+S = Ke^-rt + C
なんでこの式になるかは自分でこの二つのポートフォリオを組んでみれば一目瞭然なはず。二つともまったく同じ収益性を約束するポートフォリオとなるため、当然そのポートフォリオを組むための価格も同じになるはずだという考えである。
(investopediaより)
もし双方のポートフォリオが均衡していなかったら、やることは簡単
それだけの話。
だいぶ乱暴なまとめかたになってしまったけど、今回は導入というところでここらへんまで。ブラック・ショールズによるオプション価格の算出やポートフォリオ戦略などについてはまた別の回で取り上げることにする。
第六回:鞘取り
今回は少し短めに先物市場における鞘取りの基礎について(FX取引)
要約するとこれだけ
F(1+ruk) = E(1+rus)
ここで最初のポイントが現在の為替レートEと先物為替レートの基準である。ここでは分かりやすくするためにドルと英国ポンドをつかって説明する。
Eは1ポンドあたり何ドルかを示すレートと仮定する。
この時、定式はそのままドルを銀行に預けて増やすのとポンドを先物レートで借りて現在の為替レートで替えてドルを銀行に預けることが等しいことを意味する。
もしこの等式が成立していなければ、そこには収益チャンスが存在することを意味する。
例えばFが計算上1ポンドあたりF1で実際F0
1.rukのレートでお金を借り入れる
2.Eで$Eに替える
3.アメリカの銀行に1年預ける
4.Fで必要分返却して残りを収益とする
後半部分の国際投資についてのリスクだが、要点は大きく2つ
1つ目は当たり前だけど、為替レートは常にリスクとして存在するということ。
ゆえにたいていの場合はこのヘッジにあたるが、このヘッジが難しい。rを正確に予測して鞘取りの公式に基づいて算出するか、想定為替レートを置いてそれに基づいて算出するぐらいしかできない。
政治リスクには様々な要因があるが、代表的な指標としてPRS(Political Risk Services)グループによる分析がある。
政治リスクを国という分析単位に基づいてさらに
1.政治リスク
2。財政リスク
3.経済リスク
に分けてそれぞれ評価していく
政治リスクとしては、政府の安定性、内乱、汚職、政治における軍事力の重要性、宗教的緊張、官僚制度などがある。
経済リスクはGDP、GDP成長率、インフレ率などがある。
第五回:リスクとリターンの関係性②
今回はリスク・リターンの2回目ということで大きく3点ふれていく
1.リスク・リターンの計算
2.リスク・リターン計算にあたっての統計学
3.リスク・リターンを測る指標と関連概念
1.リスク・リターンの計算
まず基本的なリターンの求め方についてだが、以下の式になる
r= (Rend-Rbgn+dividend-intial cost) / Rbgn
ではリターンがどれほどかを測る指標はどのようなものがあるか?
代表的なものとしては
excess return という考え方がある。
これは得られるリターンがリスクフリーに比べてどれくらい高いかを示している。
リスク・プレミアムもこのexcess returnに内包されるものである。
また、リスクとリターンの間には正の相関があるという仮定が置かれている。すなわちリターンに応じてリスクが伴うという考えである。
ではこのリスクについてはどのように測るか?
このリスクを測るパラメーターがまさしくσである。これは二乗をとれば分散となり、通常のσは各サンプルの平均との乖離を示す標準偏差となる。
これらのリスクという指標を確率論的に結びつけるのが統計学であり、代表的なものとして正規分布による分析が行われる。
この正規分布については別の回で詳しく取り上げる
繰り返し述べてきたように、標準正規分布はその簡易性から採用されてきた。
しかし現実として金融市場におけるリスク計算は正規分布どおりにはならない。そこでいくつかより現実に近いと思われる指標や理論が取り込まれた。ただし、これらの指標が万能かといえば決してそんなことはない(リスクの度合が測れない)。
まずそもそもリスク・リターンのバランスを測る指標は何かから始めるとそれこそが
シャープ比率(Sharp Ratio)である
シャープ比率は以下の式で与えられる。
Sharp Ratio = Risk Premium / σ of excess return
ではこれらをふまえた上でリスク・リターンの現実との乖離について言及していく。現実としてリターンについては正規分布が示す以上にネガティブなリターンの確率が多く出現しているように思われている。
これを測る指標としてまず歪度があげられる。
これは一言でいえば正規分布がどれくらい左寄り、あるいは右寄りか。歪度が正ならそれだけプラスに偏っているからプラスリターンが過小評価されていることになる。
歪度は以下の式で与えれる。
Skew = Av. [(R-Rbar)^3/σ^3]
もう一つ別の指標として尖度があげられる。
これは一言でいえば正規分布がどれくらい鋭いか。鋭ければ鋭いほどぶっとんだ結果が起こりうる可能性が高くなる(CDFが1になること、対称性が維持されることを考えたら必然と両サイドの確率が高くなる)
いわゆるFat Tailを測る指標でもある。
尖度が高ければ高いほどぶっとんだ結果(異常な利益や損失)が起こりやすくなることを示唆する
公式は以下のとおり
Kurtosis = Av. [(R-Rbar)^4/σ^4]
次にネガティブリターンが現実よりもたくさん表れていることを説明する3つの概念について以下取り上げていく。
1.VaR
VaR(Value at Risk)を簡潔に説明するとある一定のリスク水準(通常は有意水準5%以下)における損失リスクを示したものである。(ある意味5%以下であれば、5%のときのリスクを示すため、そのリスク水準の中ではleast scenario となっている)
式は正規分布に基づいて以下のようになっている
VaR = μ- ND(α) *σ
αは信頼区間に依拠する数字であり、例えば両側5%であれば1.65、片側5%ならば1.96となる。信頼区間についても統計学を参照
2.Expected Shortfall
期待ショートフォールとは1のVaRをさらに想定シナリオ以下の全てのケースを反映して加重平均的に算出する
3.LPSD
LPSD(lower partiial standard deviation)はいわゆるリスクフリーリターン以下となるネガティブリターンのみを使って算出した標準偏差である
これは
a.分布の非対称性からネガティブリターンは個別に議論するべき
b.リスクはリスクフリーと比較して算出されるべき
c. fat tailは考慮されるべき
という3つの点を考慮して考案された
また標準偏差のかわりにLPSDを用いたものをSortino Ratio(ソルティノレシオ)という。
簡潔だからこれでとりあえず2回にわたるリスク・リターンを終わりとする