特別回③:企業の倒産モデル;Altman Z-Score
今回は興味をもってくれた人たちのためにAltman Z-Scoreについて掘り下げていきます。
もうこのおじさんがだれか話す必要はないですよね。マニアな読者(あと自分)のために書かせてもらうとフルネームはどうやらEdward I. Altman。詳しくはここではなくWikiさんに聞いてください。
早速本題のAltman Z- Scoreについて書くと、まとめはこんな感じ
”Z-Scoreという数字を複数の金融指標(比率)を変数として取り込んだモデルから導いて、そのZ-Scoreによって企業の倒産確率を検証する”
実際の定式化を紹介すると次のようになる。
この公式によって算出されるZ-Scoreによって企業の倒産確率が評価される。評価基準は以下のとおり。
Z<1.81→倒産確率高
1.81<Z<3.00→グレーゾーン
Z>3.00→倒産確率低
より正確な値について議論すると、Zスコアの観測値の分布を正規分布に近似できると仮定するとZ=3.00は有意水準2.75%のところに該当する。正規分布の性質や統計学の特性については別の回を参考にしてもらえばと思います。
もうすでにおなじみの指標ではあるが指標の意味合いもこめて復習すると、
Net Working Capital / Total Assets
運転資本の全資産に占める割合だが、ここのポイントは
ここでworking capitalとは主にnet 流動資産を指しており、どれくらい資産に流動性があるかという短期リスクである。ネット流動資産の割合が高ければ高いほど企業は倒産しづらいということ。
Retaining Earnings / Total Assets
retained earnings とは内部留保、つまり獲得された利益のうち、企業の内部に貯蓄される部分と全資産の割合を示していて、ここのポイントは
貯蓄された利益と資産の割合であり、利益の指標。内部留保が大きければ大きいほど倒産しづらいということ。
EBIT / Total Assets
EBIT (earnings before interest and tax)と全資産の割合だが、これも利益の割合。ここでのポイントは
retaining earningsと違って累積ではなく、現在の利益という意味で異なる。高ければ高いほど倒産しづらい。
Market Value of Equity / Total Liabilities
利益の市場価値と全負債の割合だが、debt to equity ratio(つまりdebt ratio)の一種。ポイントとしてはつまり、
今度は長期のリスク指標であり、市場の包括的な企業のリスク。利益率評価である。高ければ高いほど倒産しづらい。
Sales / Total Assets
以前紹介したAsset Turnover ratioの派出させたもの。つまりポイントとしては
回転率を示す指標。当然高ければ高いほど倒産しづらい。
まとめると、Z-Scoreを構成する要素としては大きくは利益率とリスク、それぞれ分解して利益率は現在と累積のものに、そしてリスクは短期・長期にわけてモデルの変数を構成する
もう一つ注釈をいれると、このモデルの定式は。。。
駆け足の紹介となったがエッセンスを掴んでもらえたらと思います。
第15回:企業評価をするにあたっての財務指標(リスク基礎編)
前2回で利益に関する分析指標を紹介したが、次はリスクに関する分析指標について触れていく。
先に結論からぶちこんでおくと、
”企業には様々なリスクがある。企業を評価するにはそれらのリスクがどのようなものでどのように使われているかを理解するのが大事だ”
ちゃんちゃん。
では本編へ
リスクといっても様々なレベルがある。規模レベルの話をしたら、企業固有のリスクからスタートし、業界リスク、国リスク、国際リスクへと広がっていく。
だいたい企業のリスク事項として財務諸表に記載されるものとしては、企業固有のリスク、為替リスク、コモディディリスク、そして金利リスクがある。
企業固有のリスクはバリュエーションの回の初めの方に説明した各階層で起こりうる。外部環境であれば規制などのリスクがあるし、企業戦略ではブランドの毀損や商品リスクなどがある。さらにグローバル展開している企業であれば常に為替リスクにさらされることになるし、普遍的なリスクとして資金調達などをする際は必ず金利リスクが伴う。
リスクというものを議論するときにこれらに追加で分析する時に次のようなことが着眼点となることが多い。
1.Financial Flexibility
2.Short term Liquidity risk
3.Long term Liquidity risk
4.Credit Risk
5.Bankruptency RIsk
6.Market Equity Risk
7.Finanical Reporting Manipulation RIsk
最初の3つはいわゆる時系列的な分類でベースとなるリスクのタイプ、後者4つはそれらのリスクを実際のリスクを内容別に配分したもの。理解しやすいようにすると、リスクには2つの特性(タイブⅠ、タイプⅡ)で表すことができて、それぞれのタイプごとに解説したと思ってもらえれば
視覚的に捉えやすいように作成
なるべく簡潔にいつものように順番に説明する
まず初めにタイプⅠ、いわゆる時系列的な分類である。
1.Finanicial Flexibility
直訳すると金融柔軟性。これが何かって簡単にまとめると、
”利潤を生み出しながらの状態を維持して、資金調達(credit financing)する力”
教科書を引用させてもらうと、
"the ability of a firm to obtain debt financing conditional on its current leverage and profitability of its operating assets"
前回紹介したROCEの式から派出させると、Capital Structure Leverageを大きくしていけばROCEは大きくなるはずである。しかし実際はそんな単純な話ではなく、当然leverageを上げたらinterest expenseが増えたりadditional costが発生するといった逆方向の力も働くので注意しなければならない。
2.Short term Liquidity risk
Short term liability riskは短期間(だいたい~90日)におけるリスク分析に関する指標である。一言でこのリスクに関する指標の意味についてだが、主に企業の短期資金調達力を示すものが多い。指標は様々だが、代表的なものは7つある。
a.レバレッジに関する指標
Current Ratio = Current assets / Current Liabilities
一言でまとめるとCurrent Ratioは短期における企業の資金調達状態を示す指標の1つである。流動負債は支払義務のある負債の割合を示すのに対して流動資産はそれにあたって企業が割り当てることが可能な資産を示している。だいたい値としては1が基準値となるが、高ければ返済能力の高さを示している。
ただし、一概に高ければいいというわけではない。流動負債と流動資産の規模によっては同じ値ずつ増加しても割合としては変化するし、あまりにも大きな値だとそれはそれで違う問題が浮かび上がってくるからである。
これをさらに限定して流動資産のうちすぐに(Quickに)現金化できるもの(だいたい90日以内)に限定して議論したものがQuick Ratioになる。
Quick ratio では
Current Assets → Cash + Marketable Securities + Accounts Receivable とするが、定義もいろいろある。
b.回転率に関する指標
以下資産タイプに応じて3つ回転率に関する指標を挙げるが、どれも本質的には同じことを言っている。
”利益(や売上)で○○のどれくらいの割合をカバーできるか” がこの指標のメッセージであり、さらに365日で割ることによってそれを”スピード”というパラメーターで表現している。(最初のものだけ例を示す)
Accounts Receivable Turnover Ratio
1.定式
Accounts receivable Turnover= Sales/(Average Accounts receivable)
2.意味
式をそのまま解釈すると売上が売掛金の何倍であるかということである。これに先ほど言ったように365をこの値で割ると、次のような式が生まれる。
Accounts receivable / (Sales/365)
これは収益何日分で売掛金を回収できるかということである。
これが各指標において収益→分子、売掛金→分母となるだけである。
Inventory Turnover= (Costs of goods sold)/(Average Inventory)
Accounts Payable Turnover= Purchases/(Average Accounts payable)
3.Long term liability risk
短期があれば長期もある。 むしろ短期あっての長期なので、戦術したFinancial Flexibilityや短期リスクをしっかり分析した上で長期リスクを吟味するのが妥当である。
ここでは重要な長期リスク指標として、Debt RatioとIntererst Coverage Ratioを紹介する。
Debt Ratio
文字通り借入金比率。ある意味レバレッジを測る指標。表現の仕方は様々であるが結局借入金vs○○○の構図を意識してその都度最適なものを選んでいく。
いくつかの組み合わせとして
分子→全負債、長期借入金
分母→全資産、株主配当
などなど
もちろん繰り返しになるが、指標の分母・分子には一貫性があるように注意はしなければならない。またdebt ratio同士の相関はおそらく高めなので、複数の指標はもとめる必要はない。
Intererst Coverage Ratio
収益で利息関連の支払を何回分カバーできるかを示す指標である。
式はこの解釈どおりである。
Interest Coverage Ratio= (Net Income+Interest Expenses+Income Tax expense+MInority Interest in earnings)/(Interest Expenses)
これもときどき収益の代わりにキャッシュフローなどが使われることがあるが、本質的なところを抑えていれば大丈夫なはずである。
ここからタイブⅡ、性質的な分類である。
4.Credit Risk
信用リスクだが、意味合いはそのまま。”企業が借入金、及びそれに付随する利息などを支払うことができるか”である。
貸し出す側として企業の以下のような点を吟味していく。
Credit History
過去の返済能力。そのまま。
Cash Flows
当然であるが、貸す側の立場になったら”これからお金になるものに頼る状態”よりも”現在すでにお金がある状態”の方が望ましい。キャッシュフローはまさしくそうした状態を測るにはうってつけの指標なのでリスク管理に限らず、企業評価のありとあらゆる場面で好まれて使われてきた。
また、リスク管理の観点からすると、キャッシュフローを考察することによってここ数年の企業の資金状態を考察するとともに潜在的な問題も検出できるとされて好まれて用いられてきた。
キャッシュフローをリスクの観点から考察する際に用いられる指標としてはoperating cash flow to current liabilities ratioが挙げられる。
Collateral (委託保証金)
”いわゆる担保てきなものの質の鑑定”のこと。委託保証金の資産タイプによっておのずと信用は変わってくる。例えば、固定資産なら信用度は高いが、無形資産は信用度が低い。売掛金などなら相手方の支払能力にもよったりする。
Debt Capacity
要は”どれくらいお金を借りる余裕があるか”ということ。前半で紹介したInterest Coverage ratio や debt ratio など長期リスクを判断する指標がこれにあたる。
Mangaement Policies
企業経営についてだが、いくら数字で示していても実際とはどうしても乖離がある。ということで、”常に経営陣の手腕や経営特性をリスクの観点から考慮する”ことも大事である。
Contingencies(臨時費用)
当たり前だが、もし何か影響の大きい出来事が起きたらそれはその後の企業のリスクに大きく影響する。つまりここでは”企業のリスクに影響を与える大きな出来事、突発的な出来事の考察”を指している。
5.Bankruptency RIsk
少し信用リスクの解説が長くなったが、話を戻して企業のリスク管理において考慮する事項として次に倒産リスクが挙げられる。
倒産リスクはだいたいモデルによって判定される。そしてそのモデルの変数として先ほどから紹介している様々なリスク指標を盛り込んでいる。モデルには単変数モデルと複数変数モデルがある。
単数モデルはモデルというよりは先述した短期リスクや長期リスクを測る指標と企業の倒産の関係性(相関)を捉えるといった方が正しい
実際にモデルと呼ぶべきものは複数変数モデルであるが、最も有名なものとしていわゆるZ- Altman Scoreがある。少し長くなってきたので興味ある方は以下の別記事で取り上げているので参考にしてもらえばと思います。
↓
6.Market Equity Risk
先に挙げた信用リスクや倒産リスクは主に企業固有のものである。それとは別に企業リスクについて分析するときは失業率の増加、為替変動、金利変動などよりマクロな視点で捉える必要のある要因もある。
これらが株式市場に反映されているだろうということでそこを通じてこれらの外部リスクを捉えようとするのがmarket Equity Riskである。
金融をやっているもの、金融に興味のある人なら一度は耳にしたことにある”マーケットのβ”ってやつです
これはファイナンスでも取り上げているCAPMモデルのことである。
記事を読むのがめんどくさい人のためにコンセプトだけもう一度ざっと紹介すると
・市場は正確に情報を反映する
・リスクに応じたリターンが得られる
という2つの前提を念頭においた上で
CAPMモデルはある企業の株価がどれくらい市場と相関して動いているかというのをMarket Betaという値を通じて評価するのである。
当然完全相関ならMarket Betaの係数は1だし、1から乖離すればするほど市場とは異なった動きをするのである。
7.Finanical Reporting Manipulation RIsk
最後になるが一番単純。財務報告操作。人間なら誰でも話を盛ってより良く聞こえるようにしたい。そういうこと。企業がそれやっちゃうってこと。ばれたら。。お察し
※ただなぜ操作をするかっていうのは熟考に値する。当然より高い株価をだして、より資金を集めて事業を拡大して利潤をあげていくというのもあるが必ずしもそういうわけではない。規制を避けるなどといった目的もあるのでそこはよく吟味。逆に企業はどういうところをごまかしにいくかなぁって考えた方がいいかも。
おそらく最長になった気がするけど、いつもどおり気にしない。最後まで読んでくれた人はありがとう。このあとは実際のバリュエーションのプロセスに入っていこうと思います。
第14回:企業評価をするにあたっての財務指標(基礎編②)
予告どおり今回はより踏み込んだ財務指標としてROAとROCEについて紹介していく。
ROA(Return on Assets)
1.定式
ROA= (Net Income-(1-tax rate)×( Interest Expenses)+ Minority Interests )/(Average Total Assets)
2.意味
全資産あたりの収益
解説していくと指標全体としては要は資産のわりにどれくらい利益を生む出しているか、つまりどれくらい効率よく資産を収益につなげているかを示している。
ここで分母・分子について言及していくとまず、当期純利益から利息関連費用を抜いている。つまりROAはフィナンシャルコストを取り除いた指標であることを理解しなければらない。一方で当期純利益というのは税金は考慮したものである。ゆえに引き算したフィナンシャルコスト分の税金は戻さないといけない。これが曲者で、このプロセスがあるため、必ずしもここで用いるInterest Expenseが財務諸表情の利息収支と一致しないのである。ポイントとしてはどこの段階で何に対して税金をかけたかを頭にいれておくといい。次にMinority Interestだが、これはつまり子会社、関連会社の収益を表している。EPSのときにもあったが、ここでMinority Interestを足すのは分母分子に一貫性をもたせるためである。分母のTotal Assetは関連会社のものも含まれているため、当然分子においてもその考慮は必要である。
先ほどのEPSと違ってROAはさらに要素分解をして捉えることができる。ここでは以下の定式化に基づいてROAをさらにProfit Margin (限界利潤)、Asset Turnover(資産回転率)
Profit Margin (限界利潤)はいわば利益率に近いが売上あたりどれくらい利益をあげられたかを示している。
Asset Turnover(資産回転率)は資産がどれくらい売上に結びついているかを示している。
さらにこれら2つに分解した要素を検討していくと、Profit Marginの変動要因としては財務諸表上の各費用の変化について細かく検討することができる。また、時系列的な比較をしている場合、常にprofit marginの変化の一時的な要因となっているものがないか確認する必要もある。建設費、金融派出商品の損益などがこれにあたる。
また、Asset Turnoverについても資産別に分析することによって様々な知見を得ることができる。以下3つの例を紹介していく
基本的に定式化はAsset TurnoverにおいてAssetsに該当する部分を以下のより具体的な資産に置き換えるのである。またさらに1年の365日をこれらの値で割ることによってそれぞれ次のような固有な指標として意味が付与される
1.Accounts Receivable(売掛金)による分析
2.Inventory(棚卸資産/在庫)による分析
3.Fixed Asset(固定資産)による分析
ただしROAにも欠点はある。
まず初めに説明したようにROAはFinanicial Expenseが含まれない。つまりこれらのFinanical Expenseが重要な違いを生み出すような業界では適用しづらい。また、Total Assetについてだが、知的財産などは含まれないためこれらを考慮する必要もある。また、Total Assetは取得原価によって価値が算出されており、決して現在価値で計算されていないという点も頭にいれておかなければならない。
これらの欠点のうち、初めのFinancial Expenseが含まれないという点を解決する指標が次に上げるROCEである。
ROCE (Return on Common Shareholder`s Equity)
1.定式
ROCE= (Net Income-Dividends of Preferred Stock )/(Common shareholder`s Equity)
2.意味
株主配当あたりの利益
利益に見合った株主配当を得られているか?あるいは逆で株主配当にふさわしい利益水準かということである。
これも先ほどのROAのように次のように細分化できる。
Profit MarginとAsset Turnoverについては上で説明したとおりである。新たに登場したCapital Structure Leverageについてだが、Leverageというものをしっかり理解していれば問題ないはずである。leverageというのは簡単にいうと、元手に対してどれくらい持っているかということである。この場合は株主配当に対する全資産の割合になるが、解釈としては株主配当に対してどれくらいの資産を要しているかである。またさらに踏み込んでファイナンスのAsset = Liability + Equityという公式を思い返せば、どれくらい借り入れているかの指標になっているということもわかるはずである。
最後のまとめも兼ねてになるが、問題はじゃあこれら3つに分解した要素の考察になるが、結局一番大切なのが因果関係を正しく理解することである。そしてそのためにはまず、深くやる。その次は特定する。この2ステップである。深くやればやるほどそのボトムネックが見えてくるはずであり、特定は何度も繰り返しているが、外部環境、業界特性、そして企業戦略などを注意深く整理しながら考えていけばいいのである。
少し長くなって情報量も多い感じだが、ここまで。後のステップでValuationについて詳細に取り上げていくが、ここで紹介した指標はそのファーストステップである。Valuationにはいろいろな指標があるが、極論してしまえば、様々な財務諸表項目の組み合わせである。指標自体が1つのモデリングであり、経済モデルなどと同様、その仮定や性質を正しく理解したうえで使用していかなければならない。
第13回:企業評価をするにあたっての財務指標(基礎編①)
今回は第12回で企業評価をするにあたっての6ステップのうちの4番目のステップ、財務指標を通じて収益性とリスクを分析するについて触れる。とりわけ最初の、企業の収益性に関する財務指標について触れていく。
ここでは大きく企業の収益性に関する指標について2つに分けて考える。
1つ目の分類は単純指標とでも名づけるとすると、すぐに算出できる上にわりとstraight forwardに理解できるような指標である。2つ目の分類としてはより複雑な指標となるが、これは複雑というよりはより細かいとこまで分類して考察することができる指標を指すとする。
今回の記事では前者の”単純な指標”についてまず紹介していく。
ここではEPSという代表的なそれを補完する分析手法としてCommon-SIze Analysis, Percentage Change Analysisについて取り上げていくが、ここで先に大事なことをメモしていくと、
指標はあくまでも指標である。絶対的に正しい、使わなければならない指標なんてないし、指標を覚えるというよりはその指標がどのような意味をもつか、どのように作られた指標なのかを指標の前提などを確認しながら用いたり、作成したりしなくてはならないということである。
当たり前だけど大事だから念のため。
では早速始めると、
EPS(Earnings per Share)
おそらく企業分析において最も重要な指標の1つ。
順を追って説明していくと
1.定式
EPS= (Net Income - Dividends of Preferred Stock)/(Weighted Average of Common Shares Outstanding)
2.意味
分母、分子の構成要素について言及しながら説明すると、まず全体としては企業株1つあたりに対してどれくらい利益を出しているかということになる。分子のNet Incomeは当期純利益をだしている。Dividends on Preferred Stock は優先株に支払われる配当を指しているが、これは分母の普通株1シェアと一貫性を持たせるために優先株の取り分を分子からも除いているのである。
ここで1つ大事な前提について言及すると、
前提として普通株と交換できるような優先株、オプション、債権などは存在しないということである。つまり、普通株の発行数を変化させる要因は0ということである。もしこれらが存在するのであれば以下のより複雑な調整済みEPSを用いるのが妥当である。
Diluted EPS= (Net Income - Dividends of Preferred Stock - Adjustments for Diluted Secruities)/(Weighted Average of Common Shares Outstanding+Weighted Average number of shares ISSUABLE from Diluted Secruities)
ここで注意すべきとこは主に2つ
1.調整値としては全ての普通株へ変換可能な金融資産がすべて変えられた場合を前提とする
2.Adjustmentsには変換するためにかかった費用(オプション行使費用など)やそれによる税金の変化分などを含む。
EPSは普通株あたりの収益を手軽に把握できるという利点はあるが、一方で以下のような欠点があることを配慮した上で考察していかなければならない。
1.普通株の数によって影響されてしまう。
つまり急に発行株式数などを増やしたりしたらEPSは激変する。それゆえ他社との比較や時系列的な比較はしづらい。
2.利益の効率は反映できない
株数と収益という2項目しか考慮しないため、利益を得るためにどれくらい資産を要したかなどについては考察することができない。
これらを改善するために指標ではないが、以下2つの分析手法を紹介する。
Common-SIze Analysis
特定の指標を100%とする基準値(だいたい全資産を基準)とし、その割合として財務指標を比較して考察する手法。時系列的にもクロスセクショナルな分析も行えるが、注意点としては%の変化の要因は捉えることができないのでそこを熟考する必要がある。そのために前述した企業分析の6stepのうち最初の3つである、外部要因や業界形態の把握、企業戦略の理解、そして財務諸表の特性をしっかり掴む必要がある。
Percentage Change Analysis
そのままだが、財務指標を変化率で捉えること。当たり前だけど、時系列的にもクロスセクショナルな分析も行える。ただし、他の条件は一様に扱う前提なのでそこだけ注意。
次回は再び財務指標だが、より洗練された考察のできる指標として主にROAとROCE、及びその掘り下げについて紹介する。
第12回:企業の外部環境や業界形態を理解するためのフレームワークの紹介
今日は財務諸表分析・バリュエーション編の第一回ということで、まずは外部環境や業界の特性を理解するにあたって活用できるいくつかのフレームワークについて紹介する。
主にフレームワークとしては3つ
1.Value Chain Model
2.Five Forces Model
3.Economic Attributes Framework
ビジュアル的とあわせて解説していきます
1.Value Chain Model
バリューチェーンモデルは正直これといった普遍的な枠組みはないので、エッセンスだけおさえてその都度いろいろな業界に対して応用していくものである。
エッセンスは
企業の0から1までの過程を細かく段階的に分けて考察することによってその都度どの段階でどのような価値が生まれるかを考察できる。
このようにすることで企業や業界の特性をより詳細に捉え、さらには比較などを通じて業界・企業固有の部分がみえてくるはずである。
2.Five Forces Model
かの有名なマイケル・ポーターさんの Five Forces Analysis について。ポーターさんによると企業の競争率と収益性は5つの”力”によって決まるのである。うち、3つは既存と新規企業間での水平的な競争に関わるものであり、残り2つは先ほど言及したバリューチェーンを通じてみられる垂直的な競争である。色分けをした上でこれら5つの”力”を紹介すると、
1.既存企業同士の競争
そのまま1。既存企業同士の競争について。キーワードは数と業界の企業数はどれくらいあるのか?業界における企業のマーケットシェアはどのようになっているか?それによって業界としてもどの段階にあるかを考察することができる。
2.新規参入障壁
そのまま2。どれくらい新規事業者が参入しやすいか。商品・サービスの技術レベル、特許、市場に入るための規制などが考慮される。
3.代替製品の出現可能性
そのまま3。企業の提供する商品・サービスについてそれが他の製品によって代替される可能性はあるか?その商品・サービスがどのように差別化を図っているによっても変わってくる(価格競争なのか異質性によるプライスリーダーが存在するものなのかなど)。また企業の位置する業界のみならず他業界における代替性はあるのかなど。
4.需要側の価格交渉力 / 5.供給側の価格交渉力
企業がその業界においてプライステイカーかプライスメーカーかどうか。つまり需要と供給のバランスから価格交渉力がどこにあるかの問題。また価格交渉力もそうだが、価格の弾力性そのものも議論の対象となる。4と5はどちらも本質的には同じことで、要は立場の違い。
3.Economic Attributes Framework
一番聞きなれないものだし、わかりづらいが、まとめると経済学的な観点から考察である。そして経済学的な観点から考察するものとして需要、供給、製造、販促、投資活動の5つを挙げている。
1.需要
需要に関する細かい考察。需要の価格弾力性はどのようになっているか?需要の変化するスピード(成長スピード)はどれくらいか?ビジネスサイクルや季節性とともに変動するかなど。
2.供給
商品が価格戦略をとるようなものか、それとも商品差別化戦略をとるものなのか?新規参入は容易なのか?などの供給形態。
3.製造
製造は労働集約的なのか、資本集約的なのか?製造過程は複雑なのか?といった製品の特性とバリューチェーンについて。
4.販促
いわゆる4P(price, product, promotion, place)にフォーカスした分析。あとは需要の形態によって販促が能動的に行われるべきか、おのずと広がりを期待できる受動的なものかなど。
5.投資・財務活動
投資活動については資産の質について。それが短期的なのか、長期的なのか。期間とは別に流動性の高いものなのか?割合などについても。
正直いまのところは数あるフレームワークの中からなぜこれらを取り上げたかはいまいちピンとこないが、実際の分析をこれらに基づいて行ったのちにもう一度同じ質問を自分に聞いてみたいと思う。
第11回:財務諸表分析とバリュエーション
ファイナンスからはいったん離れてここからしばらくは財務諸表分析とバリュエーションについて取り上げていきます。
MITの大学院行ってる同期とスカイプして早速本場の名門ではどういう教材とか使って勉強してるって聞いたら快くスライドとか送ってくれた。教科書も上のとおり。
持つべきものは優秀な友達よ。
今日はだいたいの概略である企業分析をするにあたってのステップとフレームワークについて紹介する。
企業分析をするにあたってのステップについて説明する前に、企業分析にあたって考慮するべき3つの要因として、経済(外部要因)、企業戦略(内部要因)、そして財務諸表分析(内部要因)がある。
これら3つの要因をふまえた上で、企業分析には6つのステップがある
1.外部環境や業界の特性について理解する
2.企業戦略について理解する
3.財務諸表分析を通じて企業の状態を確認する
4.財務指標を通じて収益性とリスクを分析する
5.将来における財務指標を予測する
6.企業を評価する
以後これらについて今後詳しく解説していくが、ここでも軽く紹介する。
1.外部環境や業界の特性について理解する
字のとおりだが、企業分析とその評価を行うまえに、まずその企業が位置する業界、そしてその業界を取り囲む経済情勢を理解する必要が当然ある。理解の方法は様々だが、 主に以下の3つのフレームワークを紹介しながら理解を深めていく。いずれも企業の外部環境やその形態について理解するにあたって重要なものである。詳細はまた別の回で
1.Five Forces Model
2.Value Chain Model
3.Economic Attributes Framework
2.企業戦略について理解する
外部環境や業界の特性を理解した後に重要になってくるのが企業そのものの戦略である。これはいわゆる財務諸表のような定量的な部分ではなく、より広範な視点からみた定性的な理解である。いわゆる企業が何をどこでどのように売っているかを細かく噛み砕くことである。
3.財務諸表分析を通じて企業の状態を確認する
企業戦略に関する定性的な分析を行ったところで次にいよいよ財務諸表を通じた定量的な分析である。ここでは財務諸表における様々な重要な指標を算出しながら、戦略に対して実際企業がどのようにパフォーマンスをしているかをみていく。
4.財務指標を通じて収益性とリスクを分析する
前ステップで財務諸表の整理を通じて重要な指標を算出したりしたところで、次は実際の分析である。過去のデータと比較して時系列的にみたり、同業他社の数字などと比較して水平的に考察したりすることで企業パフォーマンスを収益性とリスクという最も重要な観点から評価する。
5.将来における財務指標を予測する
収益性とリスクを分析したところで次に最も難しいステップの一つであるが、過去、現在から将来の数字を算出する。
6.企業を評価する
これまでの5つのステップで裸にした企業を様々な方法で最終的に評価する。具体的には市場の評価とのずれがあるかどうかを確認していく。
概略なので最後まで駆け足でエッセンスだけを説明して分かりづらい部分も多かったはずだが、今後それぞれのステップについて詳しく取り上げていく。
特別回②:正規分布にまつわる統計学
大学時代専門であるにも関わらず、どうしてもモヤモヤっとしてた正規分布。昨日時間をかけていろいろ調べたり聞き取り調査をしてたらやっと自分が納得いくような形で理解することができたから共有します。
今回ば久々にずいぶん長い回になってしまったけど、それだけ自分によって関心のある事柄だったので良しとします。
まず正規分布の定義について
“正規分布とは何か?”
“なんで正規分布ってそんなに重要なの?”
この2つの質問を就職活動の面接とかでも聞かれたりしたけど、イマイチな回答しかできなった。そこで改めてこの質問に向き合ってみた。(案の定、どつぼにはまった)
みんなの先生Wikiさんに聞いてみるとこんな感じ
“中心極限定理により、独立な多数の因子の和として表される確率変数は正規分布に従う。このことにより正規分布は統計学や自然科学、社会科学の様々な場面で複雑な現象を簡単に表すモデルとして用いられている。”
これがどうしてもひっかかって。。。
どうして正規分布は自然科学、社会科学の様々な場面で複雑な現象を簡単に表すモデルとして用いられているっていえるのか。
ネットで調べても、説明のない複雑な証明がただ書かれてるか自然の摂理だのなんだのしか書いてない
そんなバカなと思って格闘してたらちゃんとたどり着いた。少なくとも自分が納得する意味では。
結論からいうと、
正規分布の統計学的な性質が自然現象や社会現象を“観測する上で”あくまでも重要なのである。決して“自然現象や社会現象が正規分布になる”わけではない。むしろ因果関係が逆であって、“正規分布の統計学性質上、それが自然現象や社会現象を観測する上で大変便利な性質をもっている”ということである。
統計学をしっかりこなしている人であれば、これは当たり前かもしれないが、自分自身ががそうであったように、この一番大事な部分が見えなくなるとわけわからなくなる。
では、今後これについて詳しく噛み砕いていく。
まず核心となる正規分布の統計学的性質と有用性について触れる。
これはそもそも統計学とは?という質問に立ち返らないといけない。
統計学というのは
収集したデータからその性質や傾向を把握する記述統計学(descriptive statistics)と収集した一部分のデータからそのもとの母集団を推測する推計統計学(inferential statistics)にわかれる。現代の統計学といえば、たいていの場合は推計統計学のことを指し、記述統計学はいわば推計統計学をするにあたってのファーストステップと捉えても間違いはない。
この推計統計学はさきほども述べたように“一部分のデータからそのもとの母集団を推測する”ことである。
ではこれがどのように行われるかっていうのをほんとざっくり説明すると、
ある事象について繰り返し観測(実験)を行うと経験則的に得られる結果と確率がある。これらの結果の分布はいわばあるべき理論的な結果とのずれを示す分布となる。
つまり正規分布とはいわばある事象の観測と真の値の誤差を表す分布である。
逆にいえば、もしある事象に対して仮に“真の分布”、”真の値”というものが普遍で存在するのであれば、それがどのようなものであるかを正規分布が観測の繰り返しを通じて教えてくれるのである。
ではここで疑問に思う人がいると思うが、“なぜ、正規分布がある事象の真の値からの観測誤差を表しているのか?”
ここで登場するのが中心極限定理である。
この中心極限定理こそが“事象の観測のサンプル数を極限までに増やしていくと事象の観測された値が真の値に対して描く分布が正規分布になりますよ”と示しているのである。
この数学的証明はだるいし、正直理解するのが大変なんではしょります。それこそネットに数式だけズラズラ書いているものを参考にすれば十分。
一番初めに戻ると、この中心極限定理があってこそ、自然現象や社会現象の多くは普遍と仮定すれば、繰り返しの観測と正規分布の性質によってそれが理解できるといえるのである。
もちろん以前に紹介したブラックスワンの回でも触れたように、社会現象を普遍なものとして過去のデータから推測できることができない、正規分布を用いるとあくまでもそれがもつ確率論的な理論体系に縛られて外れ値を過小評価してしまうという反論も十分筋のとおったものであると少なくとも僕は考えている。