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目的は利他的、されど体裁は利己的。矛盾。くそ。

第15回:企業評価をするにあたっての財務指標(リスク基礎編)

前2回で利益に関する分析指標を紹介したが、次はリスクに関する分析指標について触れていく。

 

先に結論からぶちこんでおくと、

”企業には様々なリスクがある。企業を評価するにはそれらのリスクがどのようなものでどのように使われているかを理解するのが大事だ”

 

ちゃんちゃん。

 

では本編へ 

 

リスクといっても様々なレベルがある。規模レベルの話をしたら、企業固有のリスクからスタートし、業界リスク、国リスク、国際リスクへと広がっていく。

 

だいたい企業のリスク事項として財務諸表に記載されるものとしては、企業固有のリスク、為替リスク、コモディディリスク、そして金利リスクがある。

 

企業固有のリスクはバリュエーションの回の初めの方に説明した各階層で起こりうる。外部環境であれば規制などのリスクがあるし、企業戦略ではブランドの毀損や商品リスクなどがある。さらにグローバル展開している企業であれば常に為替リスクにさらされることになるし、普遍的なリスクとして資金調達などをする際は必ず金利リスクが伴う。

 

リスクというものを議論するときにこれらに追加で分析する時に次のようなことが着眼点となることが多い。

 

1.Financial Flexibility

2.Short term Liquidity risk 

3.Long term Liquidity risk

4.Credit Risk

5.Bankruptency RIsk

6.Market Equity Risk

7.Finanical Reporting Manipulation RIsk

 

最初の3つはいわゆる時系列的な分類でベースとなるリスクのタイプ、後者4つはそれらのリスクを実際のリスクを内容別に配分したもの。理解しやすいようにすると、リスクには2つの特性(タイブⅠタイプⅡ)で表すことができて、それぞれのタイプごとに解説したと思ってもらえれば

 

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視覚的に捉えやすいように作成

 

なるべく簡潔にいつものように順番に説明する

 

まず初めにタイプⅠ、いわゆる時系列的な分類である。 

1.Finanicial Flexibility

直訳すると金融柔軟性。これが何かって簡単にまとめると、

”利潤を生み出しながらの状態を維持して、資金調達(credit financing)する力”

 

教科書を引用させてもらうと、

"the ability of a firm to obtain debt financing conditional on its current leverage and profitability of its operating assets"

 

前回紹介したROCEの式から派出させると、Capital Structure Leverageを大きくしていけばROCEは大きくなるはずである。しかし実際はそんな単純な話ではなく、当然leverageを上げたらinterest expenseが増えたりadditional costが発生するといった逆方向の力も働くので注意しなければならない。

 

2.Short term Liquidity risk

Short term liability riskは短期間(だいたい~90日)におけるリスク分析に関する指標である。一言でこのリスクに関する指標の意味についてだが、主に企業の短期資金調達力を示すものが多い。指標は様々だが、代表的なものは7つある。

 

a.レバレッジに関する指標

 

Current Ratio = Current assets / Current Liabilities

 

一言でまとめるとCurrent Ratioは短期における企業の資金調達状態を示す指標の1つである。流動負債は支払義務のある負債の割合を示すのに対して流動資産はそれにあたって企業が割り当てることが可能な資産を示している。だいたい値としては1が基準値となるが、高ければ返済能力の高さを示している。

 

ただし、一概に高ければいいというわけではない。流動負債流動資産の規模によっては同じ値ずつ増加しても割合としては変化するし、あまりにも大きな値だとそれはそれで違う問題が浮かび上がってくるからである。

 

 

これをさらに限定して流動資産のうちすぐに(Quickに)現金化できるもの(だいたい90日以内)に限定して議論したものがQuick Ratioになる。

 

Quick ratio では

 

Current Assets → Cash + Marketable Securities + Accounts Receivable とするが、定義もいろいろある。 

 

 

b.回転率に関する指標

以下資産タイプに応じて3つ回転率に関する指標を挙げるが、どれも本質的には同じことを言っている。

 

”利益(や売上)で○○のどれくらいの割合をカバーできるか” がこの指標のメッセージであり、さらに365日で割ることによってそれを”スピード”というパラメーターで表現している。(最初のものだけ例を示す)

 

Accounts Receivable Turnover Ratio

 

 1.定式

Accounts receivable Turnover=  Sales/(Average Accounts receivable)

 

2.意味

式をそのまま解釈すると売上が売掛金の何倍であるかということである。これに先ほど言ったように365をこの値で割ると、次のような式が生まれる。

Accounts receivable / (Sales/365)

これは収益何日分で売掛金を回収できるかということである。

 

これが各指標において収益→分子、売掛金→分母となるだけである。

 

Inventory Turnover=  (Costs of goods sold)/(Average Inventory)

Accounts Payable Turnover=  Purchases/(Average Accounts payable)

 

 

3.Long term liability risk

短期があれば長期もある。 むしろ短期あっての長期なので、戦術したFinancial Flexibilityや短期リスクをしっかり分析した上で長期リスクを吟味するのが妥当である。

 

ここでは重要な長期リスク指標として、Debt RatioとIntererst Coverage Ratioを紹介する。

 

Debt Ratio

文字通り借入金比率。ある意味レバレッジを測る指標。表現の仕方は様々であるが結局借入金vs○○○の構図を意識してその都度最適なものを選んでいく。

いくつかの組み合わせとして

分子→全負債、長期借入金

分母→全資産、株主配当

などなど

もちろん繰り返しになるが、指標の分母・分子には一貫性があるように注意はしなければならない。またdebt ratio同士の相関はおそらく高めなので、複数の指標はもとめる必要はない。

 

Intererst Coverage Ratio

収益で利息関連の支払を何回分カバーできるかを示す指標である。 

 

式はこの解釈どおりである。 

Interest Coverage Ratio= (Net Income+Interest Expenses+Income Tax expense+MInority Interest in earnings)/(Interest Expenses)

 

これもときどき収益の代わりにキャッシュフローなどが使われることがあるが、本質的なところを抑えていれば大丈夫なはずである。

 

 

ここからタイブⅡ、性質的な分類である。

 

4.Credit Risk

信用リスクだが、意味合いはそのまま。”企業が借入金、及びそれに付随する利息などを支払うことができるか”である。

 

貸し出す側として企業の以下のような点を吟味していく。

Credit History

過去の返済能力。そのまま。

 

Cash Flows

 当然であるが、貸す側の立場になったら”これからお金になるものに頼る状態”よりも”現在すでにお金がある状態”の方が望ましい。キャッシュフローはまさしくそうした状態を測るにはうってつけの指標なのでリスク管理に限らず、企業評価のありとあらゆる場面で好まれて使われてきた。

また、リスク管理の観点からすると、キャッシュフローを考察することによってここ数年の企業の資金状態を考察するとともに潜在的な問題も検出できるとされて好まれて用いられてきた。

 

キャッシュフローをリスクの観点から考察する際に用いられる指標としてはoperating cash flow to current liabilities ratioが挙げられる。

 

 

Collateral (委託保証金)

”いわゆる担保てきなものの質の鑑定”のこと。委託保証金の資産タイプによっておのずと信用は変わってくる。例えば、固定資産なら信用度は高いが、無形資産は信用度が低い。売掛金などなら相手方の支払能力にもよったりする。

 

Debt Capacity

要は”どれくらいお金を借りる余裕があるか”ということ。前半で紹介したInterest Coverage ratio や debt ratio など長期リスクを判断する指標がこれにあたる。

 

Mangaement Policies

企業経営についてだが、いくら数字で示していても実際とはどうしても乖離がある。ということで、”常に経営陣の手腕や経営特性をリスクの観点から考慮する”ことも大事である。

 

Contingencies(臨時費用)

 当たり前だが、もし何か影響の大きい出来事が起きたらそれはその後の企業のリスクに大きく影響する。つまりここでは”企業のリスクに影響を与える大きな出来事、突発的な出来事の考察”を指している。

 

 

5.Bankruptency RIsk

少し信用リスクの解説が長くなったが、話を戻して企業のリスク管理において考慮する事項として次に倒産リスクが挙げられる。 

 

倒産リスクはだいたいモデルによって判定される。そしてそのモデルの変数として先ほどから紹介している様々なリスク指標を盛り込んでいる。モデルには単変数モデルと複数変数モデルがある。

 

単数モデルはモデルというよりは先述した短期リスクや長期リスクを測る指標と企業の倒産の関係性(相関)を捉えるといった方が正しい

 

実際にモデルと呼ぶべきものは複数変数モデルであるが、最も有名なものとしていわゆるZ- Altman Scoreがある。少し長くなってきたので興味ある方は以下の別記事で取り上げているので参考にしてもらえばと思います。

goldninjass.hatenablog.com

 

6.Market Equity Risk

 先に挙げた信用リスクや倒産リスクは主に企業固有のものである。それとは別に企業リスクについて分析するときは失業率の増加、為替変動、金利変動などよりマクロな視点で捉える必要のある要因もある。

 

これらが株式市場に反映されているだろうということでそこを通じてこれらの外部リスクを捉えようとするのがmarket Equity Riskである。

 

金融をやっているもの、金融に興味のある人なら一度は耳にしたことにある”マーケットのβ”ってやつです

 

これはファイナンスでも取り上げているCAPMモデルのことである。

記事を読むのがめんどくさい人のためにコンセプトだけもう一度ざっと紹介すると

 

・市場は正確に情報を反映する

・リスクに応じたリターンが得られる

 

という2つの前提を念頭においた上で

 

CAPMモデルはある企業の株価がどれくらい市場と相関して動いているかというのをMarket Betaという値を通じて評価するのである。

当然完全相関ならMarket Betaの係数は1だし、1から乖離すればするほど市場とは異なった動きをするのである。

 

 

7.Finanical Reporting Manipulation RIsk

最後になるが一番単純。財務報告操作。人間なら誰でも話を盛ってより良く聞こえるようにしたい。そういうこと。企業がそれやっちゃうってこと。ばれたら。。お察し 

 

※ただなぜ操作をするかっていうのは熟考に値する。当然より高い株価をだして、より資金を集めて事業を拡大して利潤をあげていくというのもあるが必ずしもそういうわけではない。規制を避けるなどといった目的もあるのでそこはよく吟味。逆に企業はどういうところをごまかしにいくかなぁって考えた方がいいかも。

 

おそらく最長になった気がするけど、いつもどおり気にしない。最後まで読んでくれた人はありがとう。このあとは実際のバリュエーションのプロセスに入っていこうと思います。