第21回:バリュエーション①
いよいよバリュエーションについて
バリュエーションにはいくつかのモデルがある。これまで紹介してきた6つのステップなどを厳密に行った上でゴリゴリやるバリュエーションもあれば、時間的な制約からPERのようにいわゆる比率の応用を使って簡素にバリュエーションする方法もある。まずは前者について取り上げていく。
まずどのようなバリュエーションにおいても最も大事なポイントを先に紹介する。
バリュエーションの根本にある考え方として
企業価値はその企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値というものがある
その基本式が
P=C/R
もうこれだ覚えてもらえば十分です。
詳細は省略するが、Cは企業が生み出すキャッシュの額を指し、Rは割引率であるが、会社からみればこれは投資家からすれば自分たちが投じた資産に対する期待収益率であり、株主に還元すると期待される資本の割合ということで資本コストを表す数字になる。
さらにこれに企業の成長率Gを考慮すると基本式が
P=C/(R-G)
になる。ここでも細かい計算ははしょります。
こうしたバリュエーション概念のもと、今回紹介するのはDividend Discount Model
企業価値といえばどれくらい株主に対してキャッシュフローを生み出して株主に還元できるか。理論的に、株主資本の価値は期待される払出の現在価値であり、配当は払出として最も代表的なものであるためここにこのモデルを使う合理性がある。
上記のバリュエーションの式に基づくと、Dividend Discount Modelの場合Cにあたるのが配当、Rが(企業の)資本コスト、Gが企業の成長率である。逆にこの3つの指標さえ求めればバリュエーションができるのである。
まずRの求め方は以前紹介したCAPMに基づく
Ei = Rfree + β(Rmrkt - Rfree)+ε
このような式で紹介したが、個別株の期待収益率はここにおけるRと同義である。
復習を兼ねて説明すると
Rfreeとはリスクフリーリターンをさす。たいていの場合は2~10年の米国債を基準にしていて目安の値としては3~4%である。
次にRmrktとは市場全体のリターンをさしており、年度によってだいぶ異なるが7~12%くらいにぶれる。
最後にβについてだが、これは少し掘り下げる。
βとは個別株とマーケットとどれくらい類似して動くかの指標で
β=σi,m/(σm)^2
のように定義されるとした。
参考記事はこちら。
http:// http://goldninjass.hatenablog.com/entry/2016/04/10/191655
ちなみに実際にマーケットの標準偏差σなんて測れるわけない。そこで個別株は以下3つの性質によってマーケットとの相関が決定されるとすることを利用すると、マーケットのβについては資産のleverage効果に着目すると以下のような式が成り立つ。
・資産バランス(Financial Leverage)
・営業バランス(Operating Leverage)(どれくらい売上のわりに営業費用がかかるか)
・売上や収益のばらつき(variability of sales and earnings)
式のポイントとしてはマーケットのβが赤文字で示されたsystematic risk(営業や資産の分散不可能なリスク)と青文字で示されていた資産バランスによって定義されるということである。
これらの式を駆使することによって(企業の)資本コストRが求められる。
ただし企業を評価するときに必ずしも株主資本を基準に評価するとは限らない。補足として株主資本ではなく、企業の資産全体を評価するときの加重平均モデルを紹介すると企業にとっての資産コストRaは以下の式で与えれられる。
Ra=Wd×Rd×(1-tax rate)+Wp×Rp+We×Re
資産タイプとしてはd=debt, p= preferred stock, e=common equity
Wはそれぞれの資産タイプのウェイトを表している
次にDの求め方
DはD=I+BVt-1-BVt
Dの求め方のエッセンスとしては簿価資産の計算である。今年の簿価資産を求めるには去年の簿価資産に今年の収益を足してそこから配当分を引けばいいのである。この式を直すと上記の式になる。
また最後の成長率Gの求め方だが、これは過去のデータや予測に基づいた数字を用いていくのが妥当である。
あとは成長率Gの設定の仕方やDの使い方などのモデルの応用になるが、ポイントとしては
・成長Gにしろ、配当額Dの分類としては、可変的な成長(配当)とそれ以降定常とする成長(配当)があり、モデルの時間区分もそこを考慮するべきである。モデルの応用については省略させてもらいます。