第23回:バリュエーション③
ゴリゴリやるバリュエーションを紹介したところで次はいわゆるPERなどの比率指標を使ったバリュエーションの紹介である。
ブラックスワンの記事を読んだ人はご存知だと思いますが、簡素なモデル化ほどそれによって生じる誤解やはしょられる部分が多くなるので使う際には注意を。今回もそのケース。
まず初めに指標を使ったバリュエーションの一番大事なポイントにふれておくと、
指標そのものの絶対的な値に意味はないことが多い。もちろん企業成長率、収益率、リスク、割引率の設定などが明確に分かっていれば基準値としてだいたい企業の実績とその企業に対するマーケットの評価値は得ることができるが、むしろここにおいて大事なのはずばり比較である。この比較は過去の企業の成績との比較もしれないし、業界平均との比較になるかもしれない。
ゴリゴリ系のバリュエーションと一番異なるところがこうした企業成長率、収益率、リスクといった企業のファンダメンタルズがマーケット情報に内包されていると仮定することによって簡素なバリュエーションができるところにある。それゆえ一般的に使われている比率指標に関する正しい理解を得るためにはもととなるゴリゴリ比率指標を紹介してそこから派出して理解する必要がある。
では実際に比率指標について紹介していくとしよう。
ここでは大きく2つValue to Book Ratio と Value to Earnings Ratioについて取り上げます。
まず初めにValue to Book Ratio だが、要約するとこれは
企業の簿価資産に対して企業がどれくらい本質的な価値を持っているかという指標である。指標は手軽なものと紹介したが実際Valueとの比率になっているものは結局予測値なども利用してValueを出さないといけないので先述したようにゴリゴリな指標である。
以下のような式で与えられる。
Value to Book ratio = Value of Common Shareholders` equity / Book Value of Share Holders` equity
一応念のためにいっておくとCommon Shareholders` equityは株主資本のことを指していて、これがベースとなっている。
ではさらに実際にこの割合がどのように算出されるかというと、前回の記事で紹介したresidual income valuation model(別記事参照)に基づくと以下のようになる。
まず式の意味についてだが、
リターンが簿価資産の期待リターンに比べてどれくらいアウトパフォームしてきたかの累積的な価値である
青文字が期待リターンに比べてどれくらいリターンがアウトパフォームしてきたかを指し、赤文字がそれを簿価資産でスケール化、Σは累積を表して、分母はそれを現在価値に直したものである。(1は初期状態を表している)
いってしまえばゴリゴリですね。じゃあさっき言ってた比較やら手軽やらは?まさしくこれを簡単にしたのがPBRである。
PBRは以下の式で与えられる。
そして式をそのまま解釈すると、時価総額が簿価純資産の何倍(上式はシェアで割って一株あたり)、つまりわかりやすく言えば”株主の投資したお金が何倍に増えたか(評価されているか)”を示している
次にValue to Earnings Ratioについてだが、要約するとこれは
企業の収益力に対して企業がどれくらい価値を持っているかという指標である。
基本的な流れは先ほどと同じでValue to earnings ratio自体がもとのゴリゴリ指標であり、これをマーケットの評価を使って簡素化したのがかの有名なPERである。
以下のような式で与えられる。
Value to Earnings ratio = Value of Common Shareholders` equity / Earnings for a single period
これは先ほどと異なり、これまでのバリュエーションにおける6つのステップをしっかり踏んでいればその算出した値の割り算ということがわかる。
また、PERについてもそのまま以下のようになる。
そして式をそのまま解釈すると、時価総額が当期純利益の何倍(上式はシェアで割って一株あたり)、つまりわかりやすく言えば”ちゃんと会社の価値に見合った株主利益還元を行っているか”を示している。
PERがとりわけ好まれる理由としては会社が将来にわたって生み出すとされる価値を反映した企業価値と現在生み出している収益が一括してみれることにある。